女性皇族が正装をする際に欠かせないものの一つに、ティアラがあります。
美しい輝きを放つティアラは、白いドレスと相まって女性皇族をより一層華やかに彩ります。細部にまでこだわった煌びやかな装飾に、多くの女性が目を奪われることでしょう。
そのような女性皇族のティアラですが、実は歴代皇后で受け継がれる長い歴史を持つうえに、さまざまな意味が込められていることをご存じでしょうか。
今回は、ティアラ導入の始まりやティアラの意味などに触れながら、皇室とティアラの歴史を辿ります。
皇族とティアラの歴史は意外に長い!

皇族は格式の高い儀式などに参加される際、全員正装を身にまといます。皇室の長い歴史の中で、皇族の正装は束帯や十二単などの和装が主流でした。
しかし現在、女性皇族においては白いドレスにダイヤの首飾り、頭にはティアラを装着した洋装が正装にあたります。
女性皇族の正装がいつ頃から現在のような洋装になったかというと、その歴史は130年以上も前にまで遡ります。
ティアラを装着した現在の華やかな洋装には、意外にも長い歴史があるのです。
皇族がティアラを利用した歴史

ティアラは、今や女性皇族にとって欠かせない装身具の一つとなっています。130年以上も続くティアラの歴史ですが、導入するにあたってどのような背景があったのでしょうか。
ここでは、皇族がティアラを利用するきっかけとなった歴史についてみていきます。
明治時代が始まり
皇族がティアラを利用し始めたのは明治時代のことです。当時の日本では、欧米諸国との不平等条約の改正を目指す動きが活発になっていました。
西洋のさまざまな文化を積極的に取り入れることで、欧米諸国に劣らない対等な国作りを目指したのです。この出来事は、日本の歴史において文明開化として広く知られています。
服装や髪型に至るまで多くの西洋文化が導入され、日本の洋風化は急速に進んでいきました。
宮中の国際化への取り組みの一環
Embed from Getty Images西洋の文化が人々の生活に広まる中で、当時の内閣総理大臣である伊藤博文は、皇室の洋風化にも急速に取り組みました。
皇室を洋風化することで、外交においても欧米諸国との対等な関係を目指したのです。
そして明治19年、宮内大臣の通達として、女性皇族の正装は洋装と定められました。この際に、女性皇族の装いとして初めてティアラが導入されたのです。
この規定がベースとなり、現在に至るまで洋装にティアラを装着するという正装が受け継がれています。
ティアラを装着した歴代皇后
Embed from Getty Images明治時代の皇室は、文明開化の影響から、服装やマナーに至るまで大きな変化を遂げていきました。
急速に取り入れられる西洋文化には、きっと国民のみならず皇族の間でも大きな驚きがあったことでしょう。
そのような明治時代に初めて皇室に導入されたティアラは、現在に至るまで歴代の皇后間で脈々と受け継がれています。
新しい時代とともに歴史を重ねてきたティアラですが、これまでにどのような皇后がティアラを装着したのでしょうか。ここでは、ティアラを装着した歴代の皇后をご紹介します。
美子皇后(昭憲皇太后)
皇室の洋風化に伴い、明治天皇の后である美子皇后(昭憲皇太后)は、女性皇族の正装として初めてティアラを装着しました。
マント・ド・クールと呼ばれるロングドレスに大ぶりなダイヤの首飾り、そして頭上にはティアラを装着した洋装のお姿が御真影に残されています。
ティアラを含め、美子皇后(昭憲皇太后)の洋装化に伴い新調された装身具一式はドイツに注文したものです。その費用は、あの鹿鳴館の総工費に相当します。
欧米諸国との対等を目指すため、装身具一式には国の威信をかけて巨額が投入されたのです。
60個のダイヤモンドに9個の大きな星形のダイヤモンドがちりばめられたティアラは、きっと日本の未来を照らすような美しい輝きを放っていたことでしょう。
貞明皇后
時代は明治から大正へ移り、皇后も美子皇后(昭憲皇太后)から大正天皇の后である貞明皇后へと世襲されました。
この際、美子皇后(昭憲皇太后)がお使いになったティアラも貞明皇后へと受け継がれ、公務の際にはマント・ド・クールやダイヤの首飾りとともに欠かさず装着されたのです。
また、貞明皇后のために国内で新たに菊をモチーフとしたティアラが新調され、公務の格式に合わせて2種類のティアラを使い分けるようになりました。
上皇后美智子様
現在の上皇后であり、平成天皇の后である美智子さまも、ティアラを装着された皇后のお一人です。
平成皇后を世襲される際に、昭和皇后から美子皇后(昭憲皇太后)や貞明皇后がお使いになったティアラを受け継がれました。
平成では既に正装に関する規定が変更されており、格式の高い公務にのみ正装を身にまとうようになったため、ティアラを装着する機会が減ってしまいました。
しかし、宮中晩餐会や新年祝賀の儀などの公務の際には欠かさずティアラが装着され、その荘厳な輝きに多くの方が目を奪われていたことでしょう。
特に、上皇后美智子さまは「ティアラがよくお似合いになる」と皇室ファンからティアラを装着されたお姿を強く支持されていました。
「由緒物」としてのティアラ

皇室の歴史を振り返ると、ティアラなどの装身具は決して贅を味わうための装飾品ではないことがよくわかります。
そのため、日本にとって大きな意味を持つティアラなどの装身具は皇位とともに受け継がれるべき「由緒物」と位置づけられ、明治以降代々の天皇に受け継がれるようになりました。
最初に作られた美子皇后(昭憲皇太后)のティアラは最も格式の高いA型、貞明天皇のティアラは次に格式の高いB型として定められ、公務に合わせて使い分けられています。
代が変わるごとにそれぞれの皇后に合わせてメンテナンスが行われるため、どの皇后も美しさを損なうことなくティアラを装着できるのです。
皇族にとってのティアラの意味
Embed from Getty Imagesティアラは皇室において天皇の三種の神器と同様に受け継がれる「由緒物」です。歴代の皇后も、皇后としての特別なお覚悟をもって身につけられたことでしょう。
それではここで、皇族にとってティアラに込められた意味についてご紹介します。
欧州のクラウンと同義
Embed from Getty Images皇族のティアラは、欧州のクラウンと同義であるとされています。クラウンには王冠という名詞としての意味だけでなく、地位や権力をいただくという動詞としての意味もあります。
クラウンを身につけた欧州の王族は地位や権力をいただく代わりに、その権威をもって国民への献身を誓ったのです。
そのため、古くから欧州の王族に伝わるクラウンには君主の権力と献身の象徴としての意味が込められています。
最高位の女性の地位に付随する権威の象徴
欧州のクラウンには権威と献身の象徴という意味がありますが、これと同義とされる皇族のティアラにも、もちろん同様の意味が込められています。
そのため、ティアラは最高位の女性の地位やその権威とともに、国への献身の意を表した象徴なのです。
国のために忙しく公務にあたられる皇族のお姿は、まさにティアラに込められた献身の意を表しているものであるといえるでしょう。
国家間の儀礼場のマナー
皇室のティアラには、諸外国の王族に対するマナーとしての意味も込められています。
外国から来賓される王族は、華やかなドレスにそれぞれの国で受け継がれた伝統的なティアラなどの装飾品を身につけています。
海外でもまた、ティアラは特別な場面で身につけられる特別な装身具として扱われているのです。
そのため、特別な装身具を身につけて来賓した王族に対して、日本でも代々受け継がれる装飾品を身につけることがマナーとなります。
ティアラを公費で製作することへの見解

皇族にとってさまざまな意味が込められたティアラですが、特に、代々の皇后で引き継がれるティアラには特別な思いが込められています。
皇后以外の女性皇族のティアラは、成人とともに公費で新調することが一般的となっていますが、それに対して一部の国民からは無駄遣いなどと批判の声が上がることもあるのです。
しかし、導入の経緯やマナーを考慮すると、ティアラは成人皇族として日本を象徴するために必要なものです。そのため、高額ではあるものの、決して無駄遣いにはあたりません。
一方、天皇皇后両陛下の一人娘である愛子さまは、成人を迎えられた際の社会情勢を考慮しティアラの新調を見送られました。
国民への温かいご配慮を示した愛子さまの行動には称賛の声が多数あがりましたが、いずれは成人皇族として、愛子さまらしい素敵なティアラを新調していただきたいものです。
皇族によるティアラ装着の機会
Embed from Getty Images日本を象徴するために必要な装身具の一つであるティアラは、特に格式の高い行事の際に正装とともに身につけられます。
それでは、具体的にどのような行事で身につけられるのでしょうか。ティアラを身につける代表的な行事には、即位の礼と饗宴の儀があります。
即位の礼
即位の礼は、天皇が皇位を受け継いだ後に、そのことを国民や世界に向けて示すための儀式です。皇室の儀式の中で、最も格式の高いものの一つとされています。
令和の即位の礼の際にも、皇后雅子さまの頭上にはティアラが飾られていました。その荘厳な輝きは、目にした人々へとても強い印象を与えたことでしょう。
饗宴の儀
饗宴の儀とは、国賓を迎えた宮中晩餐会のことです。外国のロイヤルファミリーをお迎えして行われる晩餐会は、非常に格式が高いものとなります。
国の象徴として国賓と外交を行うため、もちろん正装を身にまとい、ティアラも装着されるのです。
各国の伝統的なティアラにも劣らない日本のティアラを装着し外交を行う女性皇族のお姿からは、欧米諸国にも劣らない対等な関係を感じられます。
かつて欧米諸国との対等な国づくりを目指した伊藤博文の願いは、見事に成就したのかもしれません。
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今回は、皇室とティアラの歴史についてご紹介しました。
国の威信と未来を託された皇室のティアラの歴史は、皇室ファンの間でもあまり知られていません。そのため、大変感慨深いものがありました。
今後、正装を身にまとった皇后のお姿を拝見する場合には、ティアラなどの装身具にもぜひ注目したいものです。
皇室では、ティアラの他にもさまざまな宝飾品が受け継がれています。そのような皇室の宝飾品についてさらに知りたいとお考えではないでしょうか。
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